杉山商事では、日本の食文化をより豊かにするために新しい食品の提案や提供も行っています。その一例であるスイスワインのインポート事業について、ディレクターを務める杉山明美がご紹介します。
―スイスワインのインポートを始めたきっかけは?
2010年、当時、息子が留学していたスイスに行った時に、学校の近くにあるビストロを訪れました。そこでギャルソンに「お料理と一緒にワインはいかがですか?」と提案されたのです。私はあまりお酒を飲まないですし、それまでワインを好んで選ぶことがなかったのですが、あまりにも積極的に勧められたので、白ワインを一杯だけいただくことに。そのワインが、今まで味わったことのない美味しさでした。透明感があり、清らかで繊細。思わずその場で店員と交渉し、お店用に在庫されていた同じワインを6本日本に送っていただくことに。そのビストロで私が口にしたのは、ヴォー州で栽培されるシャスラ品種からつくられたワインでした。スイスワインは日本を含め、国外での認知度がまだ低いワインです。それもそのはず、スイスワインはほぼスイス国内で消費されていて、輸出されているのは生産量の2%程度。スイスで経験した感動をそのまま日本の方へ伝えてみたいと、インポートを決意しました。
―スイスワインを輸入するために、どのような取り組みをされていますか?
スイス現地のワインジャーナリストなどから届くスイスワイナリー情報などをもとに、ブドウ栽培やワイン醸造に真摯に取り組んでいるワイナリーを訪問し、輸入すべきワインを決めています。必ず、ワイナリーを訪問し、ワイン造りに携わる人に会い、できるだけ多くのワインを試飲させてもらい、品質の良いスイスワインの中から厳選の上にも厳選を重ね、日本の食シーンに受け入れられるワインを輸入するよう努めています。また、スイス現地で毎年、開催されるワイン品評会やコンクールに参加することは、情報収集のための大切な手段です。そのようにして輸入したワインを「やまきゅういちスイスワイン」というブランドの元、日本のお客様に提供しています。個人のお客様にはネットで販売することを始めたり、飲食店様には、メニューに載せていただけるよう交渉させていただきます。
―現地買い付け・輸入、日本で販売するうえでご苦労はありますか?
元来、生産量が極めて少ないスイスワインですが、そのほとんどは自国内で消費されています。スイスでは、家庭ごとに、ひいきにしているワイナリーがあるようですが、週末、家族でそのワイナリーに出かけ、ワイナリーの人たちと会話を楽しんだりワインを試飲したのち、その家庭で飲む一年間分のワインをケースで買って、車に積み込み、帰っていく光景を何度となく見てきました。そのようにして、あっという間にすべてのワインが売れていってしまいます。タイミングを逃せば、買い付けたくても在庫が無いということも何度も経験しています。また、在庫があっても、常連客のために売りたくないというワイナリーもたくさんあります。タイミングを逃さず、仕入れるべきワインを必要なだけ仕入れるために、何度もワイナリーを訪問し、会って、交流を深め、信頼を得ることも、とても大切な仕事です。
また、輸入したワインを購入していただくのは、国内の一流レストランを率いるソムリエやシェフのこともあります。ワインのプロである彼らに信頼していただき、対等にお話ができるように、専門知識を身につけることも大切です。そのため、インポートを始めてから今に至るまで、ワインの勉強は絶えず続けてきました。
―スイスワインは、日本ではどのような反響ですか?
スイスワインは日本で認知度があまり高くないため、初めはレストランにお勧めさせていただいても、実際に購入してくださることが少なかったです。でも、時間が経つにつれ、まだ少数派ではありますが、魅力を理解してくださるお客様も増えていき、今ではフレンチレストランから焼鳥屋さんや日本料理、中華料理屋さんまで、幅広いジャンルのお客様にスイスワインを選んでいただいています。多くのソムリエから、料理と併せやすいというお声をいただきます。自己顕示や主張が強くないスイスワインは、料理との相性において、お互いの個性を打ち消すことなく、お互いを引き立て合うことができるのです。また、お取引させていただいているお店のお客様からも、「また飲みにきたい」と評価していただいております。まだ日本でスイスワインを飲めるお店が少ないため、スイスワインが飲めるという理由でリピーターになってくださるお客様もいらっしゃるとのこと。私にとっては、嬉しい限りです。
―これから実現していきたいことは何ですか?
スイスワインは、上で述べたように、自己顕示や主張が強くないワインです。ある意味「わきまえている」ワインと言えるのかもしれません。決して料理を凌駕することなく、さりとて、しっかりと造られているがゆえの存在感があるため、ちゃんとした料理にきちんと寄り添うことができるのです。これまでは、良くも悪くも目立たないワインだったのかもしれませんが、スイスワインのこの魅力は、ワインに新たな発見を求めている、感度の高い方々に見出され始めています。引き続き、このスイスワインがぴたりと嵌まる日本の食のシーンを模索し続けたいと思っています。とかく、強くて目立つワイン、有名な格付けブランドワインが良いとされがちな日本のワイン市場に、違った側面、価値観によるワインの在り方を提案し続けていくつもりです。また、スイス全土からの異なる地域による多彩なワインの紹介や、それに伴うショッピングサイトの充実化も進めていきたいと思っています。
杉山 明美
「やまきゅういちスイスワイン」のディレクターを務める。
子供の小学校進学と同時に母校の青山学院大学(経営学部卒)に復学し、大学、大学院(上智大学大学院)を通してフランス文学を専攻した。子供のスイスボーディングスクール留学に伴い、スイスにしばしば滞在する中でスイスワインに出会い、以来、その魅力に惹きつけられている。
「やまきゅういちスイスワイン」
自国内消費量が生産量を上回っているために、あえて、輸出までは、されてこなかったスイスワイン。しかし、この繊細な味わいが洗練された日本の食に合うという定評をスイスで得るに至った現在、食のレベルの高い日本へは、スイスワイナリーによる輸出歓迎機運が高まってきています。日本の方々にスイスワインの魅力を届けられるように、現地ワイナリーにて品質の高いワインを厳選。杉山商事株式会社の創業時以来の屋号をそのまま冠した「やまきゅういちスイスワイン」ブランドとして、日本にダイレクトにお届けしています。